「IT経営力大賞」
「IT経営」コーディネート 企業活性化にITCの妙手
経済産業省の『中小企業IT経営力大賞』に掲載されました。
週間BCN+でも掲載されております。リンクから記事をご覧いただけます。
全社一体の経営計画を策定
大阪府を中心に、交通信号機など電気通信設備の設計や施工を手がける共栄電業は、ITコーディネータ(ITC)の手によって、業務プロセスの改善を実現した。
同社は、10年以上前からITシステムを導入するなど、建設業界のなかでは比較的早い時期からIT化に取り組んできた。これは、業界の談合で大阪の関連団体が公正取引委員会から勧告を受けたことが発端となり、同社にも指導が入ったことがきっかけだった。笠島浩一社長は、当時、社長就任2年目。「経営の甘さを痛感した」と振り返る。同社を成長に導くためには、経営革新を図らなければならないと判断し、「ITを活用して業務を改善する」ことを決めた。当初は、パソコンを導入してパッケージソフトを使った業務フローなど簡便なものだったが、「目に見えて効率化が進んだ」という。そこで、年を追うごとにシステムを増強。「ある程度システム導入が進んだ段階で、中期経営計画を策定した。ITを積極的に活用することが前提だった」という。しかし、この計画は経営者からのトップダウンの方法で、ビジョンのアピールやビジネスモデルを構築していた。その結果は、「社員がついてきてくれなかった」。
笠島社長は頭を悩ませた。そんな時、ITコーディネータの経営計画セミナーに出会う。セミナーに参加すると、「いかに自分が独りよがりで経営計画を策定していたかが分かった」。セミナー講演者は「ITC-Labo.」の理事長(現・代表理事)を務める川端一輝ITCだった。笠島社長はセミナー後、さっそく川端ITCへ相談する。川端ITCは、「話を聞いてみると、理論武装した戦略ではあるが“頭でっかち”と感じた」という。ITを活用して何を行いたいのかが伝わってこなかったそうだ。そこで、「社員が納得する経営方針をまず立てるべき」と川端ITCは判断。まずは社員に経営を理解させるよう、コミュニケーションの活発化を提案した。それを受けて、全社員が意見を出し合って、改めて中期経営計画を策定。笠島社長は「その結果、ITを活用することの重要性、業績を伸ばすために自分がどのポジションにいるのか、社員が理解してくれた」という。
共栄電業が中期経営計画を策定したのは、3年前。この時点で、川端ITCはIT化の助言をあえて行わなかった。業務プロセスの改善が必要だったからだ。「まずは、社長が抱いている『成長するための意識』を社員に浸透させなければならなかった」(川端ITC)という。社員が当事者意識をもち、会社のあるべき姿を理解した段階で、川端ITCは共栄電業の強みや弱みを把握する「SWOT分析」を実施。これをもとに、今では増収増益を果たす会社に成長しようとしている。昨年度(08年10月期)は売上高16億3500万円(前年度比63%増)で、前年度で赤字だった経常利益が1700万円と黒字に転換した。
全社連携のITシステム構築へ
「ITC-Labo.」の代表理事でITコーディネータ(ITC)の川端一輝氏から経営革新に関するアドバイスを受けて成長路線を築き、昨年度(2008年10月期)には大幅な増収増益を果たした共栄電業。同社は現在、大規模なITシステムのリプレースを検討している。笠島浩一社長は、「社内のデータが連携するシステムを構築する」方針を掲げており、実現のために川端ITCのアドバイスを受けている段階だ。
川端ITCが共栄電業に対してコーディネートを進めたのは、経営革新以外にも情報セキュリティなどをはじめとして多種多様にわたる。経営という上流から現場までを把握している川端ITCは、「業務プロセスがさらに改善できるようなIT化を図っていきたい」との考えを示している。現在のシステムは、グループウェアによる情報共有から積算・見積り、受注伝票の発行などができるものの、各ITベンダーのパッケージソフトなどを購入しているため、入力し直さなければならないといった手間がかかる部分もある。こうした課題を、データベース(DB)の構築などで解決。顧客分析もできるようなシステムに仕上げたい考えだ。ただ、「今年は大不況の影響で、業績が思ったように伸びないという厳しい状況だった」と、笠島社長はITシステムに大きな投資をかけられなかったことを打ち明ける。「しかし、長期的な計画などと悠長なことは言っていられない。1年後には実現したい」(笠島社長)と意欲を燃やしている。初期投資を抑える観点から、SaaSやASPなど課金式のサービス導入も模索している。
交通信号機など電気通信設備の設計や施工などを手がける共栄電業は、建設業者のなかでは比較的早い段階からIT化に取り組んできた。そのため現在でもITをうまく活用して事業拡大を図っているケースがある。その一つがグループウェアで自社に必要な入札案件の情報をまとめるというもの。「有益な情報はビジネスにつながる。情報をもとに、協業できる業者に話をもちかけて案件を獲得するという効果が出ている」(笠島社長)という。本拠地である大阪府だけでなく近隣地域にまで事業領域を広げており、複数のアライアンスを組んでいるようだ。もちろん、顧客に対しては「入札案件の情報をもとに、自社の強みを生かした提案を行っている」としている。
パソコンの活用に関しては、社内で全社員がパソコンを使って仕事をこなす環境を整えているほか、外出先の社員がノートパソコンとウェブカメラで社に現場の映像を送るなどといったことも日常的に行っている。IT化で、すでに業務効率化を実現した共栄電業が全社データの連携を果たした際、どのような成長を遂げていくかに注目が集まりそうだ。一歩先を見据えた事業を手がけることは間違いない。